絶望から再生へ ~『クワイエットルームにようこそ』を読んで~
この小説のタイトルにもある“クワイエットルーム”とは何かご存知でしょうか?
和訳すれば“静かな部屋”ですが、この小説におけるこの言葉はとても暗く重いマイナスな要素を含んでいます。
なぜかというと、、、
精神病院の閉鎖病棟のなかでも、危険度が高く人に害を及ぼす患者を収容する部屋だからです。
ただでさえ要塞のような精神病院、
その上精神科入院患者の行動を制限するためのルールが厳格な閉鎖病棟、
その上医療保護入院という名の強制入院、
その上さらに閉鎖病棟唯一の「内側のノブが回らない」クワイエットルーム
もはや、静かな部屋というより静かにさせる部屋という方が合ってます。
さて、物語は主人公が女性の閉鎖病棟のクワイエットルームで意識を取り戻すところから始まります。
彼女は、オーバドーズ(薬の過剰摂取)によって生死の境をさまよい、気がつけば精神病院に搬送されていました。
この作品では、主人公が閉鎖病棟に収容されてから14日間で退院するまでの間の苦悩や個性豊かな患者たちとのエピソードなどが、主人公の心理を主体として描かれています。
人間のリアルな心理や感性が深掘りされていて、とても興味深いものでした。
印象に残ったのは、主人公が自分の過ちと向き合い、自分自身とも向き合い変わっていく姿です。
物語冒頭では、今までの普通の暮らしが一変して、異常な空間での暮らしを強いられたために、現実を受け入れることができませんでした。
クワイエットルームは、かなり過酷な環境であり、患者たちの間でも避けられている場所です。
外の様子を見れない鉄の箱のような殺風景な部屋。
危険度の高い患者は、行動制限のために、ベッドで寝た状態で拘束されています。
無意識ななかで暴れていた主人公は、精神疾患を抱えているわけではないが、オーバードーズにより他者からは完全に精神科患者と見なされていました。
たとえ死ぬ気がなくともオーバードーズで意識不明の重体となれば、事故という見解では済まされません。
主人公も普通である自分がなぜ精神病院に入れられているのか理解に苦しんでいたが、自分の行動が原因なだけに受け入れざるを得ませんでした。
無意識では危険だったが意識が戻れば健康体であるため、クワイエットルームから解放されるのは早かったです。
2人部屋の病室になり、晴れて(閉鎖病棟のなかで)自由の身となった主人公が目にしたのは、他の患者たちの様子でした。
様々な苦悩や辛い過去を抱えながら生きています。
自分の辛さを打ち明けられる信頼できる人や他人の弱みにつけこんでくる厄介な人、そもそも他人に興味がない人などいろんな人間性がありました。
危険な人もいれば、温厚で打ち解けやすい人もいます。
精神病院ならではの異常さのなかにも、人間味・生きることの重さを感じられる瞬間があります。
人との出会いや想像絶する体験の数々が主人公の心境を変えていきます。
自分を入院期間中も支えてくれた彼への感謝と謝罪の気持ち
生きてもう一度積み上げようとする意思
自分のことは自分で解決する覚悟
このようなメッセージが、後半になるにつれて、行動描写や言葉などに表れていていました。
自分と向き合う時間、過去を受け入れることは生に深みを与えることができるのだと感じました。
私も過去から目を背けず受け入れることで、自分を変えること・人生に深みを与えることをしていきたいですね。
【作品情報】
『クワイエットルームにようこそ』(2007)松尾スズキ
映画化もされているそうです!